VM Entry / VM Exit ハンドラ
前チャプターでは VMCS を設定し VMLAUNCH でゲストを実行することに成功しました。 しかし、VM Entry 前や VM Exit 後の状態の保存・復元処理はほとんどしていませんでした。 これは、ゲストとホストがレジスタなどの状態を共有してしまっていることを意味します。 本チャプターでは VM Entry と VM Exit の処理を実装し、適切に状態の保存・復元と VM Exit のハンドリングをするようにします。
important
本チャプターの最終コードは whiz-vmm-vmentry_vmexit
ブランチにあります。
Table of Contents
ゲストの状態保持
ゲストの状態は Vcpu
が保持します。
ひとまずここではゲストの汎用レジスタを記憶することにしましょう。
保持するべき汎用レジスタの一覧を定義します:
pub const GuestRegisters = extern struct {
rax: u64,
rcx: u64,
rdx: u64,
rbx: u64,
rbp: u64,
rsi: u64,
rdi: u64,
r8: u64,
r9: u64,
r10: u64,
r11: u64,
r12: u64,
r13: u64,
r14: u64,
r15: u64,
// Align to 16 bytes, otherwise movaps would cause #GP.
xmm0: u128 align(16),
xmm1: u128 align(16),
xmm2: u128 align(16),
xmm3: u128 align(16),
xmm4: u128 align(16),
xmm5: u128 align(16),
xmm6: u128 align(16),
xmm7: u128 align(16),
};
整数型の汎用レジスタと8つの XMM レジスタを保持します。 本来であれば浮動小数点レジスタは AVX や AVX-512 などシステムがサポートするレジスタ全てを保存するべきです。 しかしながら、それらの保存には XSAVE 命令を適切に使う必要があります。 めんどうなので、Ymir ではゲストに対して SSE2 よりもモダンな浮動小数点レジスタをサポートしないことにしています1。
Vcpu
構造体にゲストの情報を保持する変数を持たせます:
pub const Vcpu = struct {
...
guest_regs: vmx.GuestRegisters = undefined,
...
};
VMLAUNCH と VMRESUME
VM Entry を実行する命令には VMLAUNCH と VMRESUME の2つがあります。 この2つは現在の VMCS の状態に応じて使い分けます。 VMCSの基礎 のチャプター で述べたように、VMCS は以下に示す状態遷移図のような状態を持ちます:
State of VMCS X. SDM Vol.3C 25.1 Figure 25-1.
今回注目するのは Clear / Launched の状態です。 VMCS はいずれかの CPU の Current VMCS に設定された状態で VMLAUNCH が実行されると、状態が Launched になります。 Launched になった VMCS を使って再度 VM Entry をするには VMRESUME を使います。 言い換えると、一度目の VM Entry には VMLAUNCH を使い、2回目以降は VMRESUME を使います。 VMLAUNCH と VMRESUME を使い間違えると、VMX Instruction Error が発生します。
VMCS の状態を取得する方法はありません。
そのため、VMM 側でこれらの状態を記録しておく必要があります。
Vcpu
に VMCS の状態を保持する変数を追加します:
pub const Vcpu = struct {
...
/// The first VM-entry has been done.
launch_done: bool = false,
...
};
エラーハンドリング
まずは VM Entry の非アセンブリ部分を実装します。 VM Entry には、以下の2種類の失敗があります:
- VM Entry 自体が失敗する (VMX Instruction Error)
- 他の VMX 拡張命令が失敗した場合と同様に VMX Instruction Error を返します。
loop()
関数内のVMLAUNCH
/VMRESUME
命令の直後から実行が再開されます。
- VM Entry 自体は成功するが、すぐに VMEXIT する
VMLAUNCH
/VMRESUME
自体は成功したが VM Entry に失敗するケースです。- VM Exit が発生し、VMCS Host-State に設定した RIP に実行が移ります。
まず扱うのは前者のケースです:
pub fn loop(self: *Self) VmxError!void {
while (true) {
// Enter VMX non-root operation.
self.vmentry() catch |err| {
log.err("VM-entry failed: {?}", .{err});
if (err == VmxError.VmxStatusAvailable) {
const inst_err = try vmx.InstructionError.load();
log.err("VM Instruction error: {?}", .{inst_err});
}
self.abort();
};
...
}
}
self.vmentry()
は後述するアセンブリの VMENTRY
を実行する関数です。
返り値として VmxError!void
を返すため、もしもエラーを返した場合には catch
で補足します。
VMX 拡張命令にはさらに2通りのエラーが存在します:
VmxStatusUnavailable
: エラーコードがないエラーVmxStatusAvailable
: エラーコードがあるエラー
エラーコードが利用できる場合には、VMCS から VMX Instruction Error を取得し表示します。
VMCS の設定が適切にされていれば VMX 拡張命令は失敗することがありません。
そのため、Ymir では VM Entry 時のエラーは復帰不可能とみなし、self.abort()
でアボートします:
pub fn abort(self: *Self) noreturn {
@setCold(true);
self.dump() catch log.err("Failed to dump VM information.", .{});
ymir.endlessHalt();
}
pub fn dump(self: *Self) VmxError!void {
try self.printGuestState();
}
fn printGuestState(self: *Self) VmxError!void {
log.err("=== vCPU Information ===", .{});
log.err("[Guest State]", .{});
log.err("RIP: 0x{X:0>16}", .{try vmread(vmcs.guest.rip)});
log.err("RSP: 0x{X:0>16}", .{try vmread(vmcs.guest.rsp)});
log.err("RAX: 0x{X:0>16}", .{self.guest_regs.rax});
log.err("RBX: 0x{X:0>16}", .{self.guest_regs.rbx});
log.err("RCX: 0x{X:0>16}", .{self.guest_regs.rcx});
log.err("RDX: 0x{X:0>16}", .{self.guest_regs.rdx});
log.err("RSI: 0x{X:0>16}", .{self.guest_regs.rsi});
log.err("RDI: 0x{X:0>16}", .{self.guest_regs.rdi});
log.err("RBP: 0x{X:0>16}", .{self.guest_regs.rbp});
log.err("R8 : 0x{X:0>16}", .{self.guest_regs.r8});
log.err("R9 : 0x{X:0>16}", .{self.guest_regs.r9});
log.err("R10: 0x{X:0>16}", .{self.guest_regs.r10});
log.err("R11: 0x{X:0>16}", .{self.guest_regs.r11});
log.err("R12: 0x{X:0>16}", .{self.guest_regs.r12});
log.err("R13: 0x{X:0>16}", .{self.guest_regs.r13});
log.err("R14: 0x{X:0>16}", .{self.guest_regs.r14});
log.err("R15: 0x{X:0>16}", .{self.guest_regs.r15});
log.err("CR0: 0x{X:0>16}", .{try vmread(vmcs.guest.cr0)});
log.err("CR3: 0x{X:0>16}", .{try vmread(vmcs.guest.cr3)});
log.err("CR4: 0x{X:0>16}", .{try vmread(vmcs.guest.cr4)});
log.err("EFER:0x{X:0>16}", .{try vmread(vmcs.guest.efer)});
log.err(
"CS : 0x{X:0>4} 0x{X:0>16} 0x{X:0>8}",
.{
try vmread(vmcs.guest.cs_sel),
try vmread(vmcs.guest.cs_base),
try vmread(vmcs.guest.cs_limit),
},
);
}
dump()
と abort()
はそれぞれ別々に呼び出したいときがあるため、分けて実装しています
(デバッグ用にゲストの状態をダンプして処理は継続したい場合など)。
アボート時はゲストの状態を出力し、無限 HLT ループに入ります。
VM Entry
呼び出し部分
さきほど出てきた vmentry()
はアセンブリの VMLAUNCH / VMRESUME をラップする関数です:
fn vmentry(self: *Self) VmxError!void {
const success = asm volatile (
\\mov %[self], %%rdi
\\call asmVmEntry
: [ret] "={ax}" (-> u8),
: [self] "r" (self),
: "rax", "rcx", "rdx", "rsi", "rdi", "r8", "r9", "r10", "r11"
) == 0;
if (!self.launch_done and success) {
self.launch_done = true;
}
if (!success) {
const inst_err = try vmread(vmcs.ro.vminstruction_error);
return if (inst_err != 0) VmxError.VmxStatusAvailable else VmxError.VmxStatusUnavailable;
}
}
純粋なアセンブリ部分はさらに asmVmEntry()
に分離しています。
この関数は引数として *Vcpu
をとります。
asmVmEntry()
の詳細は後述しますが、この引数はホストの状態の保存・ゲストの状態の復元などに使われます。
VM Entry / Exit の実装方法にはいくつかの方法があります。
単純に考えると一度 VM Entry してしまえば、次に VMM に処理が移る際には VM Exit ハンドラに飛ぶことになります。
VM Entry を呼び出した関数 (vmentry()
) に戻ってくることはありません。
しかし、Ymir ではコントロールフローが分かりやすくなるように「VM Entry があたかも通常の関数呼び出しであるかのように」実装します。
処理の流れとしては、 vmentry()
→ Guest → VM Exit Handler → vmentry()
となります。
実現方法については VM Entry / VM Exit ハンドラの実装の際に説明します。
さて、VM Entry (asmVmEntry()
) が通常の関数呼び出しのように帰ってくることが分かりました。
この関数は VM Entry に成功した場合は 0
を、失敗した場合は 1
を返します。
VM Entry に成功し、それが初めての VM Entry である場合には launch_done
を true
にします。
これによって、2回目以降は asmVmEntry()
で VMRESUME を実行するように分岐します。
VM Entry に失敗した場合には、VMX Instruction Error があるかどうかを確認し、適切なエラーを返します。
ホストの状態保存
vmentry()
から呼び出される asmVmEntry()
を実装していきましょう。
vmentry()
が Zig 関数 (Error Union を返すことができる / calling convention はZigコンパイラ依存) であったのに対し、
この関数は完全に生のアセンブリとして書きたいため .Naked
calling convention を使います。
まずは x64 における callee-saved レジスタたちを保存します2。 本当は RSP も callee-saved ですが、RSP はのちほど別の方法で保存します:
export fn asmVmEntry() callconv(.Naked) u8 {
// Save callee saved registers.
asm volatile (
\\push %%rbp
\\push %%r15
\\push %%r14
\\push %%r13
\\push %%r12
\\push %%rbx
);
...
}
続いて、引数としてとった *Vcpu
のうち、.guest_regs
フィールドのアドレスを RBX 経由でスタックに積みます。
asmVmEntry()
は .Naked
calling convention であり引数を取ることができないため、
vmentry()
では CALL 前に明示的に RDI に引数を入れていました。
Vcpu
内の .guest_regs
のオフセットは @offsetOf()
と std.fmt.comptimePrint()
を使って計算します。
comptimePrint()
はコンパイル時に評価される文字列を生成できるため、asm volatile()
の引数として指定することができます。
このようにオフセットを計算することで、.guest_regs
のオフセットが変わったとしてもコードを修正する必要がなくなります:
// Save a pointer to guest registers
asm volatile (std.fmt.comptimePrint(
\\lea {d}(%%rdi), %%rbx
\\push %%rbx
,
.{@offsetOf(Vcpu, "guest_regs")},
));
次に、残る callee-saved レジスタである RSP を保存します。 RSP は VMCS Host-State に保存する必要があるという意味で特別です。 VMWRITE をアセンブリから呼び出すのは面倒なため、ここでは C calling convention の関数を実装します:
export fn setHostStack(rsp: u64) callconv(.C) void {
vmwrite(vmcs.host.rsp, rsp) catch {};
}
これを asmVmEntry()
から CALL します:
// Set host stack
asm volatile (
\\push %%rdi
\\lea 8(%%rsp), %%rdi
\\call setHostStack
\\pop %%rdi
);
setHostStack()
を呼び出す直前のスタックの状態は下図のようになっています。
VM Exit は、図の黄色の部分をスタックに持つ状態でスタートさせます。
よって、VMCS Host-State に保存する RSP も黄色の部分を指すようにします。
RSP は直接 MOV することができないため、PUSH と LEA で間接的に設定します。
PUSH を挟むため、setHostStack()
に渡す引数には +8(RSP)
を指定しています。
Stack Layout Before VM Entry & After VM Exit
スタックを VMCS にセットしたら、PUSH しておいた RDI を POP して戻します。
この時点で RDI は依然として *Vcpu
を持っています。
引数 *Vcpu
の中でもう1つ使いたいフィールドが .launch_done
です。
この値によって VMLAUNCH と VMRESUME のどちらを使うかを決定します。
今のうちにこの値を取得しておきましょう。
結果は RDI に入れます。
.launch_done
が true
であれば RFLAGS.ZF
が 1
になります:
// Determine VMLAUNCH or VMRESUME.
asm volatile (std.fmt.comptimePrint(
\\testb $1, {d}(%%rdi)
,
.{@offsetOf(Vcpu, "launch_done")},
));
ゲストの状態復元
以上でホストの状態をスタックに保存することができました。
残すはゲストの状態の復元です。
.guest_regs
からゲストのレジスタを取り出し順にセットしていきます。
RAX に &.guest_regs
を入れるため、RAX だけは最後にセットします:
// Restore guest registers.
asm volatile (std.fmt.comptimePrint(
\\mov %%rdi, %%rax
\\mov {[rcx]}(%%rax), %%rcx
\\mov {[rdx]}(%%rax), %%rdx
\\mov {[rbx]}(%%rax), %%rbx
\\mov {[rsi]}(%%rax), %%rsi
\\mov {[rdi]}(%%rax), %%rdi
\\mov {[rbp]}(%%rax), %%rbp
\\mov {[r8]}(%%rax), %%r8
\\mov {[r9]}(%%rax), %%r9
\\mov {[r10]}(%%rax), %%r10
\\mov {[r11]}(%%rax), %%r11
\\mov {[r12]}(%%rax), %%r12
\\mov {[r13]}(%%rax), %%r13
\\mov {[r14]}(%%rax), %%r14
\\mov {[r15]}(%%rax), %%r15
\\movaps {[xmm0]}(%%rax), %%xmm0
\\movaps {[xmm1]}(%%rax), %%xmm1
\\movaps {[xmm2]}(%%rax), %%xmm2
\\movaps {[xmm3]}(%%rax), %%xmm3
\\movaps {[xmm4]}(%%rax), %%xmm4
\\movaps {[xmm5]}(%%rax), %%xmm5
\\movaps {[xmm6]}(%%rax), %%xmm6
\\movaps {[xmm7]}(%%rax), %%xmm7
\\mov {[rax]}(%%rax), %%rax
, .{
.rax = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "rax"),
.rcx = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "rcx"),
.rdx = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "rdx"),
.rbx = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "rbx"),
.rsi = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "rsi"),
.rdi = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "rdi"),
.rbp = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "rbp"),
.r8 = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "r8"),
.r9 = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "r9"),
.r10 = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "r10"),
.r11 = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "r11"),
.r12 = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "r12"),
.r13 = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "r13"),
.r14 = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "r14"),
.r15 = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "r15"),
.xmm0 = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "xmm0"),
.xmm1 = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "xmm1"),
.xmm2 = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "xmm2"),
.xmm3 = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "xmm3"),
.xmm4 = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "xmm4"),
.xmm5 = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "xmm5"),
.xmm6 = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "xmm6"),
.xmm7 = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "xmm7"),
}));
ホストの保存とゲストの復元ができたため、いよいよ VM Entry を実行します。
この時点で RFLAGS.ZF
には VMLAUNCH と VMRESUME のどちらを実行するべきかが格納されています。
その値に応じて適切な方を呼び出しましょう:
// VMLAUNCH or VMRESUME.
asm volatile (
\\jz .L_vmlaunch
\\vmresume
\\.L_vmlaunch:
\\vmlaunch
);
VM Entry が成功すれば処理はゲストに移るため、このあとの命令が実行されることはありません。 VMX 拡張命令が失敗した場合には続く命令が実行されます。 そのため、続けてエラーハンドリングを書きます:
// Set return value to 1.
asm volatile (
\\mov $1, %%al
);
// Restore callee saved registers.
asm volatile (
\\add $0x8, %%rsp
\\pop %%rbx
\\pop %%r12
\\pop %%r13
\\pop %%r14
\\pop %%r15
\\pop %%rbp
);
// Return to caller of asmVmEntry()
asm volatile (
\\ret
);
asmVmEntry()
は成功時に0
・失敗時に1
を返すというオレオレ calling convention にしているため、ここでは1
をセットします。
先ほどの図で示したとおり、この時点でスタックには &.guest_regs
と callee-saved レジスタが積まれています。
前者は単に POP して捨てて、後者はレジスタに復元してあげます。
VM Exit
ゲストが何らかの要因で VM Exit すると、VMCS Host-State に設定した RIP に処理が移ります。
Ymir では asmVmExit()
をセットするため、この関数にホストへの復帰処理を実装します。
VM Exit した時点ではスタックは先ほどの図の黄色部分のようになっています。
最も上には &.guest_regs
が積んであります。
ゲストの状態を保存するために使うため、まずはこれを取り出しましょう:
pub fn asmVmExit() callconv(.Naked) void {
// Disable IRQ.
asm volatile (
\\cli
);
// Save guest RAX, get &guest_regs
asm volatile (
\\push %%rax
\\movq 8(%%rsp), %%rax
);
...
}
RAX はスクラッチレジスタとして使います。
ゲストの RAX を失うわけにはいかないため、&.guest_regs
を取り出す前に RAX をスタックに PUSH しています。
続いてゲストのレジスタを guest_regs
に保存します:
// Save guest registers.
asm volatile (std.fmt.comptimePrint(
\\
// Save pushed RAX.
\\pop {[rax]}(%%rax)
// Discard pushed &guest_regs.
\\add $0x8, %%rsp
// Save guest registers.
\\mov %%rcx, {[rcx]}(%%rax)
\\mov %%rdx, {[rdx]}(%%rax)
\\mov %%rbx, {[rbx]}(%%rax)
\\mov %%rsi, {[rsi]}(%%rax)
\\mov %%rdi, {[rdi]}(%%rax)
\\mov %%rbp, {[rbp]}(%%rax)
\\mov %%r8, {[r8]}(%%rax)
\\mov %%r9, {[r9]}(%%rax)
\\mov %%r10, {[r10]}(%%rax)
\\mov %%r11, {[r11]}(%%rax)
\\mov %%r12, {[r12]}(%%rax)
\\mov %%r13, {[r13]}(%%rax)
\\mov %%r14, {[r14]}(%%rax)
\\mov %%r15, {[r15]}(%%rax)
\\movaps %%xmm0, {[xmm0]}(%%rax)
\\movaps %%xmm1, {[xmm1]}(%%rax)
\\movaps %%xmm2, {[xmm2]}(%%rax)
\\movaps %%xmm3, {[xmm3]}(%%rax)
\\movaps %%xmm4, {[xmm4]}(%%rax)
\\movaps %%xmm5, {[xmm5]}(%%rax)
\\movaps %%xmm6, {[xmm6]}(%%rax)
\\movaps %%xmm7, {[xmm7]}(%%rax)
,
.{
.rax = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "rax"),
.rcx = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "rcx"),
.rdx = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "rdx"),
.rbx = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "rbx"),
.rsi = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "rsi"),
.rdi = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "rdi"),
.rbp = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "rbp"),
.r8 = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "r8"),
.r9 = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "r9"),
.r10 = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "r10"),
.r11 = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "r11"),
.r12 = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "r12"),
.r13 = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "r13"),
.r14 = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "r14"),
.r15 = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "r15"),
.xmm0 = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "xmm0"),
.xmm1 = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "xmm1"),
.xmm2 = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "xmm2"),
.xmm3 = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "xmm3"),
.xmm4 = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "xmm4"),
.xmm5 = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "xmm5"),
.xmm6 = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "xmm6"),
.xmm7 = @offsetOf(vmx.GuestRegisters, "xmm7"),
},
));
ゲストの状態を保存したら、スタックに積んでいたゲストの callee-saved レジスタを復元します。
// Restore callee saved registers.
asm volatile (
\\pop %%rbx
\\pop %%r12
\\pop %%r13
\\pop %%r14
\\pop %%r15
\\pop %%rbp
);
この時点でスタックの最も上には vmentry()
が CALL の際に積んだ RIP があります。
よって、ここで RET すると vmentry()
に復帰することができます。
呼び出し側は、あたかも asmVmEntry()
を関数呼び出したかのように処理を続行することができます:
// Return to caller of asmVmEntry()
asm volatile (
\\mov $0, %%rax
\\ret
);
Exit Handler
以上で VM Entry / VM Exit を経て vmentry()
→ loop()
に復帰することができました。
このあとは、VM Exit した要因に応じて適切な処理をしてあげます。
VM Exit のハンドラ関数を定義します:
fn handleExit(self: *Self, exit_info: vmx.ExitInfo) VmxError!void {
switch (exit_info.basic_reason) {
.hlt => {
try self.stepNextInst();
log.debug("HLT", .{});
},
else => {
log.err("Unhandled VM-exit: reason={?}", .{exit_info.basic_reason});
self.abort();
},
}
}
引数には ExitInfo
構造体を受け取ります。
この中には VM Exit した大まかな要因が記録されているため、この要因に応じて switch
します。
現在はとりあえず HLT による VM Exit 用の処理だけを用意し、HLT が起こったことだけをログ出力するだけにしておきます。
ExitInfo
は VMCS VM-Exit Information カテゴリの Basic VM-Exit Information フィールドから取得することができます:
pub fn loop(self: *Self) VmxError!void {
while (true) {
...
try self.handleExit(try vmx.ExitInfo.load());
}
}
Exit ハンドラを呼び出したあとは、while
ループの先頭に戻り再び VM Entry をします。
ひたすらにこの繰り返しです。
まとめ
それでは、実装した VM Entry / VM Exit を用いてゲストを実行してみましょう。
VMCS Execution Controls の Primary Processor-based Controls における .hlt
は true
に設定して、HLT 命令で VM Exit するようにしておいてください。
この状態でゲストを実行すると、以下のような出力になります:
[INFO ] main | Entered VMX root operation.
[INFO ] main | Starting the virtual machine...
[DEBUG] vcpu | HLT
[DEBUG] vcpu | HLT
[DEBUG] vcpu | HLT
[DEBUG] vcpu | HLT
[DEBUG] vcpu | HLT
[DEBUG] vcpu | HLT
[DEBUG] vcpu | HLT
...
ひたすらに HLT
が出力されます。
これは VM Entry / VM Exit ループが正常に動作していることを示しています。
また、ホストが VM Exit ハンドラにおいて出力をしたり再度 VM Entry をするためには、ホストの状態が正しく保存・復元されていることが必要です。
つまり、今回はそれらも意図したとおりに動いているということが分かります。
ゲストの状態が正しく保存・復元されているかどうかが気になる人は、loop()
の while
に入る前に guest_regs.rax = 0xDEADBEEF
のようにゲストレジスタの値をいじってみてください。
HLT で VM Exit しないように設定しゲストを実行すると、ゲストが HLT ループで止まってくれます。
その状態で QEMU monitor でレジスタの状態を確認すると、RAX が 0xDEADBEEF
になっているはずです。
本チャプターでは VM Entry / VM Exit の処理を適切に実装することで、何回も VM Entry を繰り返すことができるようになりました。 前チャプターでは単発の VMLAUNCH をして終わりだったことを考えると、大きな進歩と言えるでしょう。 アセンブリを直書きすることが多いチャプターでしたが、これ以降はほとんどアセンブリは出てきません。 その点については安心してください。
References
「サポートしない」というのは利用した場合に未定義動作になるという意味ではなく、システムとしてこれらの機能を利用できなくするという意味です。 これらの機能が利用可能かどうかは CPUID 命令や XCR0 レジスタで確認するのですが、Ymir はゲストに対するこれらの値を任意に操作できます。
Callee-saved なレジスタを保存しているのに vmentry()
内で caller-saved なレジスタ達を clobber していることを不審に思ったかもしれません。
インラインアセンブリで CALL しても、コンパイラはその前後で caller-saved なレジスタを保存・復元するようなコードを出力してくれません。
そのため、CALL の前後で手動で caller-saved なレジスタを保存・復元するアセンブリを書くか、今回のように clobber してしまう必要があります。